はじめに
本日の福祉用具あんしんナビでは、公的機関から新たな事故情報や注意喚起の公表はありませんでした。
しかし、「ニュースがない日」は安全について学ばなくても良い日ではありません。むしろ、日常の中に潜む見えにくいリスクを見直す絶好の機会です。
今回取り上げるのは、多くの介護現場で毎日使われている車いすの駐車ブレーキです。
「ブレーキレバーはしっかり『カチッ』と止まっているから大丈夫。」
そう思っていても、実際にはブレーキの保持力が低下していることがあります。
今回は、テクノエイド協会の安全点検要領や厚生労働省が示す福祉用具の安全な使用に関する考え方をもとに、車いすの駐車ブレーキワイヤーの劣化と事故防止のポイントについて解説します。
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車いすの駐車ブレーキはなぜ劣化するのか
ブレーキはワイヤーで動いている
介助用車いすや一部の自走用車いすでは、手元のブレーキレバーと車輪のブレーキ部分が**ワイヤー(インナーケーブル)**でつながっています。
このワイヤーは毎日の使用によって
- 引っ張りによる疲労
- 被覆内部での摩耗
- わずかな伸び
が発生します。
レンタル車いすは、ご家族だけでなく、
- デイサービス職員
- 訪問介護員
- 看護師
- 福祉用具専門相談員
など、多くの人が毎日使用するため、想像以上に負荷がかかっています。
「カチッ」と止まっていても安心とは限らない
ブレーキワイヤーが数ミリ伸びるだけでも、
ブレーキシューがタイヤを押さえる力が弱くなります。
その結果、
- レバーの手応えはある
- ロックしたように見える
- 平坦な床では動かない
にもかかわらず、
利用者が座った瞬間や立ち上がる瞬間には、
車いすが滑り出すことがあります。
つまり、
「操作感」と「制動力」は必ずしも一致しないということです。
なぜ移乗時に事故が起こりやすいのか
利用者が座る瞬間に力のかかり方が変わる
移乗時には、
利用者の体重によって車いす全体の重心が大きく移動します。
すると、
車輪には回転しようとする力(回転モーメント)が働きます。
ブレーキの制動力が十分であれば問題ありません。
しかし、
ワイヤーの伸びによって保持力が低下している場合、
この力に耐えられず、
突然ブレーキが滑ってしまうことがあります。
リスクが高まる環境
次のような場所では特に注意が必要です。
- 玄関スロープ
- 緩やかな坂道
- ワックスが塗られた床
- クッションフロア
- 小さな段差
- ベッド横
これらの環境では、
わずかなブレーキ性能の低下が、
転倒事故につながる可能性があります。
現場で確認したい4つのポイント
① ブレーキレバーの感触
以前より
- 軽くなった
- 深く引かないと止まらない
と感じた場合は注意が必要です。
② タイヤの空気圧
空気圧が低下すると、
正常なブレーキでも効きが悪くなります。
まずは空気圧を適正に保つことが基本です。
③ ブレーキ部の当たり具合
ブレーキをかけた状態で、
制動部がタイヤへしっかり接触しているか確認します。
異常があれば自己調整せず、レンタル事業者へ相談しましょう。
④ 人が乗った状態を想定した確認
車いすは、
人が乗って初めて大きな荷重が加わります。
そのため、
空車で軽く押して確認するだけでは、
異常を見逃すことがあります。
モニタリング時には、利用者の安全に十分配慮したうえで、実際の使用状況を想定した点検を行うことが重要です。
ご家族が気を付けたいポイント
次のような変化は、
ブレーキ性能が低下しているサインかもしれません。
- 立ち上がると車いすが少し動く
- ベッド移乗時にズルっと下がる
- 坂道で止まりにくい
- ブレーキレバーが以前と違う感触
このような場合は、
自分で調整しようとしないことが大切です。
また、
ブレーキ周辺へ潤滑油を吹き付けることは避けてください。
摩擦が低下し、ブレーキ性能に悪影響を与える可能性があります。
異常を感じたら、
レンタル事業者または福祉用具専門相談員へ相談しましょう。
学生・若手福祉用具専門相談員へのアドバイス
ブレーキ点検では、
「レバーが止まるか」だけを見るのではなく、
利用者が実際にどのように移乗しているかを観察することが重要です。
例えば、
- 前傾姿勢が強い
- 身体を勢いよく預ける
- 片麻痺で左右どちらかに荷重が偏る
このような身体状況では、
ブレーキへ通常以上の負荷がかかります。
福祉用具の状態だけでなく、
利用者・環境・動作を一体で評価する視点を身につけることが、安全な支援につながります。
色のユニバーサルデザインから見る安全
車いすのブレーキは機械的な性能だけでなく、見つけやすさ・操作しやすさも安全性に影響します。
色のユニバーサルデザインでは、赤や緑などの色だけで情報を伝えるのではなく、色の違いに加えて形や表示、コントラストを組み合わせることが推奨されています。
例えば、
- ブレーキレバーの位置が見つけやすい配色
- 床との明るさの差による視認性の確保
- 色だけに頼らないピクトグラムや表示
といった工夫は、高齢者や色覚の多様性がある方にとっても操作しやすく、誤操作の防止につながります。
安全性は「壊れないこと」だけでなく、「正しく認識し、正しく使えること」も含めて考えることが大切です。
まとめ
車いすの駐車ブレーキは、
レバーの手応えだけでは安全性を判断できません。
特にレンタル車いすは、多くの人が日常的に使用するため、ワイヤーの伸びや摩耗が少しずつ進行する可能性があります。
また、移乗時は利用者の体重移動によって車いすへ大きな力が加わるため、わずかな制動力の低下が事故につながることもあります。
日頃から点検を行い、小さな違和感を見逃さず、異常があれば早めに専門相談員へ相談することが、安心・安全な利用につながります。
今日から使える安全アドバイス
- ✅ ブレーキレバーの感触が以前と変わっていないか確認する
- ✅ タイヤの空気圧を定期的に点検する
- ✅ 移乗前に車いすが確実に停止していることを確認する
- ✅ 車いすが少しでも動く場合は使用を続けず、レンタル事業者へ相談する
- ✅ ブレーキの自己調整や潤滑油の使用は避ける
- ✅ 定期モニタリング時には、利用者の使用状況を踏まえた点検を実施する
出典・参考資料
- テクノエイド協会「車いすの安全点検要領」
- 厚生労働省「福祉用具の安全な使用について」
- 厚生労働省「福祉用具貸与に関する制度資料」
※本記事は2026年6月29日時点で公表されている公的機関等の情報をもとに作成しています。新たな通知や製品情報が公表された場合は、内容が更新されることがあります。

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