はじめに
本日の福祉用具ニュースでは、高齢者の歩行を支える重要な福祉用具である「歩行補助つえ(多脚杖)」について取り上げます。
4点杖や3点杖は、一般的な1本杖よりも安定性が高く、「手を離しても倒れにくい杖」として知られています。しかし、その安定性は、すべての脚先ゴムが適切に床へ接地していることが前提です。
実は、日々の使用によって生じる「脚先ゴムの片減り」が、利用者の転倒リスクを高める要因になることがあります。
今回は、厚生労働省や公益財団法人テクノエイド協会が示す福祉用具の安全な使用に関する考え方を参考に、多脚杖の安全管理について、利用者の心身状態・住環境・介護保険制度の3つの視点から考えていきます。
多脚杖はなぜ安定するのか
支持基底面を広げる安全設計
多脚杖は、3本または4本の脚で床面を支える構造になっています。
一般的な1本杖と比較すると、
- 支持基底面が広い
- 体重を複数の脚に分散できる
- 自立しやすい
- バランス保持を補助しやすい
という特徴があります。
特に、
- 脳血管障害による片麻痺
- 変形性股関節症
- 下肢筋力の低下
- 歩行時のふらつき
などがある方に利用されることが多い福祉用具です。
しかし、多脚杖の安定性は「4本すべての脚先ゴムが適切に接地していること」で初めて成立します。
見落とされやすい「脚先ゴムの片減り」
特定の脚だけが摩耗する理由
利用者によっては、杖を真下ではなく斜め前方へ突く癖があります。
例えば、
- 麻痺側への体幹の傾き
- 歩行時のバランス補正
- 長年の歩行習慣
などによって、常に同じ方向へ力が加わる場合があります。
この状態が続くと、特定の脚先ゴムだけが斜めにすり減る「片減り」が発生します。
見た目には大きな問題がないように見えても、体重をかけた瞬間に杖が傾きやすくなり、本来の安定性が低下するおそれがあります。
転倒につながる可能性
脚先ゴムが片減りすると、
- 接地バランスが崩れる
- 杖がわずかに傾く
- 利用者が体勢を立て直しにくくなる
- 転倒リスクが高まる
という流れが生じることがあります。
特に片麻痺のある方や、とっさの反応が難しい方では、小さなグラつきが重大な転倒事故につながる可能性があります。
屋内段差がリスクを高める理由
家の中には小さな段差が多い
在宅生活では、
- フローリングと畳の敷居
- カーペットやじゅうたんの縁
- ドア枠
- 引き戸のレール
など、数ミリから数センチ程度の段差が数多く存在します。
多脚杖特有の不安定さ
多脚杖は接地面積が広いため、段差をまたぐ際に、
- 一部の脚は段差の上
- 一部の脚は段差の下
という状態になることがあります。
このとき脚先ゴムに片減りがあると、段差の角に荷重が集中しやすくなります。
結果として、
「ガタッ」
と杖が跳ねるような動きを起こし、利用者がバランスを崩す可能性があります。
特に住宅内での転倒は骨折や入院の原因にもなりやすいため注意が必要です。
介護保険制度を活用した安全管理
多脚杖は貸与対象となる場合がある
歩行補助つえは、介護保険制度において福祉用具貸与の対象となることがあります。
レンタルのメリットとして、
- 専門職による定期点検
- 状態に応じた交換相談
- 身体状況の変化への対応
が挙げられます。
しかし、脚先ゴムの摩耗は少しずつ進行するため、定期訪問だけでは変化を見逃すことがあります。
支援者による日常的な確認が重要
安全管理のためには、
- 福祉用具専門相談員
- ケアマネジャー
- 訪問介護員
- デイサービス職員
- 家族
など、多職種による見守りが重要です。
歩行時の様子だけでなく、杖そのものの状態にも目を向けることが転倒予防につながります。
学生・若手福祉用具専門相談員へのアドバイス
多脚杖の選定では、杖本体の性能だけを見るのではなく、「利用者がどのように杖を使っているか」を観察することが重要です。
例えば、
- 杖をどの方向へ突いているか
- 体幹の傾きはないか
- 屋内でどこを歩くことが多いか
- 段差や敷居は存在するか
といった生活環境の情報は、転倒リスクを評価する上で欠かせません。
福祉用具は「製品」ですが、実際には「人」と「住環境」の間で機能しています。
現場では、用具だけを見るのではなく、利用者の生活全体を見る視点を大切にしてください。
色のユニバーサルデザインから考える安全対策
色のユニバーサルデザインの考え方では、「誰もが状態の変化に気づきやすいこと」が重要です。
脚先ゴムの摩耗は黒色や灰色の単色では判別しにくい場合があります。
例えば、
- 摩耗すると異なる色が現れる構造
- 交換時期が分かる視覚表示
- 点検箇所を目立たせる配色
などの工夫があれば、利用者や家族、介護職員が状態変化に気づきやすくなります。
安全は性能だけでなく、「気づけるデザイン」によって支えられているのです。
まとめ
多脚杖は、1本杖よりも高い安定性を持つ優れた歩行補助具です。
しかし、その安全性は脚先ゴムの状態によって大きく左右されます。
特に、
- 脚先ゴムの片減り
- 屋内の小さな段差
- 利用者の歩行習慣
- 認知機能や身体機能の変化
が重なると、転倒リスクが高まる可能性があります。
「まだ使える」ではなく、「安全に使えているか」という視点で定期的な確認を行うことが大切です。
毎日使う福祉用具だからこそ、小さな変化への気づきが大きな事故予防につながります。
今日から使える安全アドバイス
- 平らな床の上で多脚杖を置き、ガタつきがないか確認する
- 特定の脚だけ浮いていないか確認する
- ゴムの角が丸くなっていないか確認する
- 段差を越える際の杖の動きを観察する
- 異常を感じたら福祉用具専門相談員へ相談する
- 定期点検だけでなく日常的な見守りを行う
小さな脚先ゴムの変化が、大きな転倒事故を防ぐ第一歩になります。

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