【週刊まとめ】静的確認だけでは不十分?多脚杖とポータブルトイレに共通する動的リスクと実務対応

目次

はじめに

福祉用具は「見た目に問題がなければ安全」と思われがちですが、実際の使用環境では思わぬリスクが潜んでいます。

今週は新たな製品事故情報の公表はありませんでしたが、これまで公表されている安全情報を整理すると、一つの共通した課題が見えてきました。

それは**「静止した状態では問題が見えなくても、実際に使うと不安定になる場合がある」**ということです。

今回は、多脚杖(四点杖など)と木製ポータブルトイレを例に、「動的リスク」という視点から、日頃の点検で意識したいポイントを解説します。


動的リスクとは何か

静止状態と実際の使用では力のかかり方が違う

福祉用具は、置いた状態や軽く押しただけでは問題が見つからないことがあります。

しかし実際には、

  • 歩き始める
  • 立ち上がる
  • 方向を変える
  • 身体をひねる

といった動作が加わります。

このような動きでは、

  • 斜め方向の力
  • 横方向の力
  • 回転する力(モーメント)

が同時に発生します。

この違いが、安全確認で最も重要なポイントになります。


多脚杖で注意したい「脚ゴムの偏摩耗」

偏った摩耗は安定性を低下させることがある

四点杖や多脚杖は接地面が広く安定性が高い福祉用具です。

しかし利用者によって歩き方には個人差があります。

例えば、

  • 外側へ杖を出す癖
  • 片麻痺による荷重の偏り
  • 段差を越える動作

などが続くと、一部の脚ゴムだけが早く摩耗することがあります。

偏摩耗が進行すると、

  • 接地面が水平にならない
  • 荷重が一部へ集中する
  • 段差で傾きやすくなる

可能性があります。

摩耗は少しずつ進むため、毎日使用している本人ほど変化に気付きにくい点も特徴です。


点検時のポイント

静止状態だけを見るのではなく、

  • 実際の歩行速度で確認する
  • 斜め前方へ軽く荷重をかける
  • 異音やぐらつきがないか確認する

といった実使用を想定した確認が有効です。


木製ポータブルトイレで注意したい固定部の緩み

使用環境による変化も考慮する

木製ポータブルトイレは木材を使用しているため、

  • 温度
  • 湿度
  • 季節変化

などの影響でわずかな寸法変化が生じることがあります。

その結果、固定部の締結力が低下し、長期間使用するとガタつきが発生する場合があります。

特に、

  • カーペット
  • 凹凸のある床

などでは影響が分かりにくいことがあります。


簡単に確認できるポイント

日常点検では、

  • 横方向へ軽く力を加える
  • 立ち上がりを想定した荷重をかける
  • 異音や揺れがないか確認する

ことが重要です。

もし違和感がある場合は、自分で修理せず専門職へ相談しましょう。


貸与品と購入品では点検の考え方が違う

制度による点検機会の違い

介護保険制度では、

貸与品

  • 定期訪問がある
  • 状態確認の機会が比較的多い

一方、

購入品(特定福祉用具販売)

  • 定期点検の機会は制度上限定される
  • 長期間変化に気付きにくい

という違いがあります。

そのため購入した福祉用具ほど、意識的なセルフチェックや専門職への相談が重要になります。


ご家族が注意したいポイント

不具合を感じた際、

  • テープを巻く
  • 接着剤で固定する
  • 市販部品で代用する

といった応急処置を行うケースがあります。

しかし、これらは製品本来の性能や安全性に影響を与える可能性があります。

違和感があれば、購入店や福祉用具専門相談員、メーカーへ相談することが大切です。


学生・若手福祉用具専門相談員へのアドバイス

福祉用具の点検では、「壊れているかどうか」だけを見るのではなく、「利用者がどのように使っているか」を観察する視点が重要です。

例えば、多脚杖であれば歩行のクセや荷重のかけ方、ポータブルトイレであれば立ち上がり時の身体の動きや設置環境まで確認すると、静止状態では見えないリスクを把握しやすくなります。

また、貸与品と販売品では点検機会が異なるため、制度の違いを理解したうえでフォロー計画を立てることが、安全管理の質を高めるポイントになります。


色のユニバーサルデザインから考える安全性

福祉用具の安全は、構造だけでなく「見やすさ」も重要です。

色のユニバーサルデザインでは、色覚の違いに関わらず情報が伝わる配色が推奨されています。

例えば、

  • 黒い脚ゴムと黒い床では摩耗が分かりにくい
  • 固定ノブの位置が背景色と同化して見落とされる
  • 点検位置を高いコントラストで示すことで視認性が向上する

など、視認性を高める工夫は日常点検の精度向上にもつながります。

「見えること」も、安全性を支える大切な要素です。


まとめ

今週のテーマを通して見えてきたのは、「静止した状態で安全に見えること」と「実際に使用して安全であること」は必ずしも同じではないという点です。

多脚杖の脚ゴムの偏摩耗も、木製ポータブルトイレの固定部の緩みも、実際の動作によって初めてリスクが現れることがあります。

福祉用具専門相談員や介護職、ご家族が日頃から実際の使用動作を意識して確認することが、事故の予防につながります。

安全確認は、「見る」だけではなく、「実際に使う場面を想像して確認する」ことが大切です。


今日から使える安全アドバイス

  • 多脚杖は脚ゴムの摩耗状態を4本すべて確認する
  • 歩行時を想定し、斜め方向への荷重で安定性を確認する
  • ポータブルトイレは横方向へのガタつきを定期的に確認する
  • 異音や違和感があれば使用を続けず専門職へ相談する
  • テープや接着剤による自己修理は避ける
  • 購入した福祉用具も定期的に点検日を決めて確認する

出典

  • 厚生労働省「福祉用具の安全な使用に関する情報」
  • 公益財団法人テクノエイド協会「福祉用具安全点検要領」
  • 消費者庁 製品安全関連情報
  • 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)製品安全情報

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この記事を書いた人

著者プロフィール

福祉用具・介護用品・製品安全分野に長年携わり、製品の安全性や品質向上、事故予防に関する業務に従事してきました。

福祉用具は、利用者の生活や自立を支える大切な道具です。一方で、使用環境や身体状況によっては、思わぬ事故やヒヤリハットが発生することもあります。

これまでの経験を通じて、「事故はなぜ起こるのか」「どうすれば防げるのか」を常に考えながら、製品安全やリスクマネジメントに取り組んできました。

このブログでは、福祉用具や介護用品の安全な使い方、事故予防のポイント、製品安全に関するニュースや話題を、できるだけ分かりやすくお伝えしています。

また、YouTubeチャンネル「福祉用具あんしんナビ」では、福祉用具に関するニュースや安全情報を音声コンテンツとして配信しています。

利用者、ご家族、福祉用具専門相談員、介護職の皆さまが、安全で安心な生活を送るための一助となれば幸いです。

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