はじめに
福祉用具による事故というと、「製品の故障」が原因と思われがちです。
しかし実際には、利用者の身体状況、住宅環境、用具の設置状態が複雑に重なり合って発生するケースが少なくありません。
例えば、浴室で使用しているシャワーチェアーの脚ゴムが劣化していたり、夜間のマットセンサーが障害物のように見えてしまったりすることで、思わぬ転倒につながることがあります。
今週は、福祉用具専門相談員や介護従事者が日常的に関わる用具の中から、「屋内環境」「姿勢」「歩行動線」に着目し、安全管理上のポイントを整理しました。
訪問時のアセスメントやモニタリングの参考としてご活用ください。
屋内環境・姿勢・歩行動線のリスクを一体的に考える
福祉用具の安全性を考える際は、
- 用具そのもの
- 利用者の身体状況
- 住環境
を個別に見るのではなく、一体的に評価することが重要です。
同じ用具であっても、利用者や環境が変わればリスクは大きく変化します。
マットセンサー型徘徊感知機器
夜間の転倒リスクに注意
マットセンサーは、利用者の離床を検知して介護者へ知らせる福祉用具です。
一方で、夜間の薄暗い環境では、利用者がマットを障害物と認識してしまうことがあります。
その結果、
- またごうとする
- 避けようとする
- 飛び越えようとする
といった行動が発生し、バランスを崩して転倒するおそれがあります。
確認ポイント
- マットの固定状態
- ベッドからトイレまでの動線
- 足元灯の設置状況
- 夜間の認知機能の変化
を確認しておきましょう。
シャワーチェアー
滑り事故は脚ゴムから始まる
浴室は高温多湿環境であり、脚ゴムは徐々に劣化します。
特に、
- 硬化
- ひび割れ
- 摩耗
が進行すると滑りやすくなります。
また、脚ゴム自体に問題がなくても、
- 石けんカス
- 皮脂汚れ
- ぬめり
によって滑走リスクが高まります。
確認ポイント
- 脚ゴムのひび割れ
- 脚部の変形
- ガタつき
- 洗い場の排水状況
を定期的に確認することが重要です。
ポータブルスロープ
わずかな浮きが重大事故につながる
ポータブルスロープは設置型の用具であるため、設置状況によって安全性が左右されます。
特に、
- 玄関の段差
- アプローチの凹凸
- タイルの欠け
- 砂や小石
などにより完全に接地しない場合があります。
その状態で車いすが通過すると、
- ガタつき
- 脱輪
- 転落
につながる可能性があります。
確認ポイント
- 上端・下端の浮き
- 使用前の固定状況
- 車いす進入角度
- 介助者間の設置手順の統一
が重要です。
屋内用歩行器
折りたたみ後のロック確認を忘れない
歩行器は利用頻度が高く、日常的に折りたたみ・展開が繰り返されます。
展開後にロック機構が十分に固定されていないと、使用中に不安定になるおそれがあります。
また、
- 敷居
- カーペットの端
- 畳との境界
などが衝撃のきっかけになる場合があります。
確認ポイント
- ロック機構の固定状態
- フレームのゆがみ
- キャスターの回転状態
- 異音の有無
を確認しましょう。
床走行式移動用リフト
小さな変化を見逃さない
移動用リフトは要介護度の高い利用者の移乗を支える重要な福祉用具です。
油圧式リフトでは、長期間の使用によりパッキンが劣化する場合があります。
その結果、
- 微細なオイル漏れ
- 作動速度の変化
- 異音
などが発生することがあります。
確認ポイント
- シリンダー周辺の汚れ
- オイルのにじみ
- 吊り具の損傷
- キャスターの状態
を日常的に確認することが大切です。
手動・介助式車いす
シートのたるみは姿勢崩れのサイン
車いすは長期間使用すると、座面や背シートが徐々に伸びてきます。
その結果、
- 骨盤後傾
- ずっこけ座り
- 側方傾斜
などが発生しやすくなります。
さらに、
- 褥瘡リスクの増加
- 食事姿勢の悪化
- 上肢活動の低下
にもつながる可能性があります。
確認ポイント
- 深いシワ
- 生地の伸び
- 座面高さの変化
- 姿勢の左右差
を観察しましょう。
置き型連結手すり
ベース板は見落とされやすい危険箇所
置き型連結手すりは工事不要で長い歩行動線を確保できる便利な用具です。
しかし、ベース板の外縁部分は利用者の足先が接触しやすい場所でもあります。
特に、
- すくみ足
- 小刻み歩行
- 足の挙上が難しい方
では注意が必要です。
確認ポイント
- ベース板の位置
- 夜間照明
- 通路幅
- 履物との干渉
を確認しておきましょう。
学生・若手福祉用具専門相談員へのアドバイス
福祉用具のアセスメントでは、「用具だけを見る」のではなく、「利用者がどのように使っているか」を観察することが重要です。
例えば、
- 車いすを見る
- 歩行器を見る
だけでは不十分です。
実際に、
- 立ち上がる瞬間
- 歩き始める瞬間
- トイレへ向かう動線
まで確認することで、本当のリスクが見えてきます。
現場経験を積むほど、「製品」よりも「使われ方」が事故に直結していることを実感するでしょう。
色のユニバーサルデザインから考える安全対策
高齢者や視覚特性の異なる方にとって、色の見え方は大きく異なります。
そのため、
- 手すりの端部
- スロープの始点と終点
- ベース板の境界
などは、色だけに頼らず形状や明暗差も活用して識別しやすくすることが重要です。
色のユニバーサルデザインでは、「誰にでも分かりやすい表示」が基本となります。
福祉用具の安全管理においても、視認性は重要な事故予防策の一つです。
まとめ
今週取り上げた福祉用具は、それぞれ異なる特徴を持っていますが、共通するポイントがあります。
それは、
「事故は用具単体ではなく、人・環境・用具の組み合わせで発生する」
ということです。
マットセンサー、シャワーチェアー、スロープ、歩行器、リフト、車いす、置き型手すりのいずれも、小さな変化の積み重ねが事故につながる可能性があります。
日常的な点検と継続的なアセスメントが、安全な在宅生活を支える重要な鍵になります。
今日から使える安全アドバイス
- マットセンサーの固定状態を確認する
- シャワーチェアーの脚ゴムにひび割れがないか確認する
- スロープ設置後に浮きやガタつきを確認する
- 歩行器のロック機構が確実に固定されているか確認する
- リフトの作動部に異常な汚れやオイルのにじみがないか確認する
- 車いすシートのたるみや深いシワを確認する
- 置き型連結手すりのベース板周辺に引っかかりがないか確認する
日々の「5秒の確認」が、大きな事故を防ぐ第一歩になります。


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