バスボードは「押して動かない」だけでは不十分 移乗時のズレを防ぐ点検ポイント

目次

はじめに

毎日使っている福祉用具だからこそ、「いつも通りだから大丈夫」と思ってしまうことがあります。

今回取り上げるのは、浴槽への出入りを助けるバスボード(入浴補助用具)です。

2026年7月6日時点で、消費者庁、NITE(製品評価技術基盤機構)、厚生労働省、テクノエイド協会から新たな事故情報や注意喚起は公表されていません。しかし、公的機関の安全点検要領をあらためて確認すると、見た目では分かりにくい固定不良に注意が必要であることが分かります。

「上から押しても動かないから安心」

実は、この確認だけでは見逃してしまうリスクがあります。


バスボードの固定は「回転する力」にも耐えられることが重要

バスボードは、浴槽の縁に架け、浴槽内壁へストッパーを押し当てて固定する構造になっています。

ストッパーの調節ノブは着脱や締め直しを繰り返すことで、ネジ部(樹脂・金属)が少しずつ摩耗する場合があります。

厚生労働省やテクノエイド協会の安全資料では、固定力が低下すると使用中に位置ずれが生じる可能性があることが示されています。

なぜ押しても動かないのにズレるのか

静止した状態では、体重はほぼ真下にかかります。

しかし実際の移乗では、

  • 身体をひねる
  • お尻の位置をずらす
  • 足を浴槽へ入れる

といった動作が加わります。

このときバスボードには、

  • 水平方向の力
  • 回転する力(モーメント)

が同時に作用します。

つまり、真上から押しただけの点検では、実際の使用状態を十分に再現できないのです。


浴槽の材質や形状も安全性に影響する

固定力はバスボードだけで決まるものではありません。

浴槽側の条件も大きく影響します。

注意したい環境要因

  • FRP浴槽
  • ホーロー浴槽
  • 人工大理石浴槽

これらは表面が非常に滑らかです。

さらに、

  • 石けんカス
  • 湯垢
  • 水あか

が付着すると摩擦がさらに低下します。

また、浴槽内壁が下に向かって細くなるテーパー構造では、ストッパーに上向きの力が働きやすくなり、固定が不安定になることがあります。

バスボードは「用具」と「住環境」の両方を確認して初めて安全性を評価できます。


日常点検で確認したい4つのポイント

特別な工具は必要ありません。

安全に配慮しながら、次の点を確認しましょう。

① ノブの締め付け感

以前より軽く回る、空回りする感覚がないか確認します。

② 軽い水平揺動

設置後、軽く横方向へ力を加え、ガタつきや違和感がないか確認します。

※過度な力は加えないよう注意してください。

③ 浴槽内壁の清掃状態

石けんカスや湯垢が付着していないか確認します。

④ ストッパーの接触状態

左右均等に浴槽内壁へ接しているか確認します。


やってはいけない自己流対策

「少し動くから」と、

  • タオルを挟む
  • ゴムシートを追加する
  • 市販の滑り止め材を貼る

といった方法は推奨されていません。

本来の固定構造が変化し、かえって不安定になる可能性があります。

違和感を感じた場合は使用を中止し、購入した販売店や福祉用具専門相談員へ相談しましょう。


学生・若手福祉用具専門相談員へのアドバイス

バスボードの点検では、「動かなかった」という結果だけでは十分ではありません。

実際の利用者は、

  • 体幹をひねる
  • 片麻痺で片側へ荷重する
  • 股関節可動域が制限されている

など、一人ひとり異なる動作を行います。

利用計画書や選定理由書には、「浴槽内壁の材質」「形状」「固定状態」「体幹回旋時の安定性」まで評価した内容を記録すると、より実践的なアセスメントになります。

「どのような力が加わるか」を考える視点が、安全な福祉用具選定につながります。


色のユニバーサルデザインから考える入浴時の安全

入浴環境では、色の見やすさも転倒予防に役立ちます。

浴槽の縁とバスボードの色が似ていると、境界が分かりにくくなり、高齢者や白内障・加齢による見え方の変化がある方では位置を誤認することがあります。

色のユニバーサルデザインでは、色だけに頼らず、明るさやコントラストの違いでも区別できることが重要とされています。

福祉用具を選ぶ際は、浴槽との色の差や視認性も確認すると、より安全な入浴環境づくりにつながります。


まとめ

バスボードは、「押して動かない」ことだけでは安全とは言い切れません。

実際の移乗では身体をひねる動作が加わるため、固定ノブの摩耗や浴槽内壁の状態によって、位置ずれや回転が生じる可能性があります。

厚生労働省やテクノエイド協会が示す安全点検の考え方を参考に、日頃から動的な確認を取り入れることが、事故予防につながります。

毎日の小さな点検が、安心して入浴できる環境を支える大切な一歩です。


今日から使える安全アドバイス

  • ノブが以前より軽く回らないか確認する
  • 上から押すだけでなく、軽く横方向のガタつきも確認する
  • 浴槽内壁の湯垢や石けんカスを定期的に清掃する
  • タオルや滑り止め材を挟んで固定力を補おうとしない
  • 少しでも違和感があれば使用を中止し、購入先や福祉用具専門相談員へ相談する

参考資料(エビデンス)

  • 厚生労働省「福祉用具の安全な使用について」
  • テクノエイド協会「福祉用具の安全点検要領(入浴補助用具)」
  • 消費者庁 製品安全情報
  • 製品評価技術基盤機構 製品安全情報データベース
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この記事を書いた人

著者プロフィール

福祉用具・介護用品・製品安全分野に長年携わり、製品の安全性や品質向上、事故予防に関する業務に従事してきました。

福祉用具は、利用者の生活や自立を支える大切な道具です。一方で、使用環境や身体状況によっては、思わぬ事故やヒヤリハットが発生することもあります。

これまでの経験を通じて、「事故はなぜ起こるのか」「どうすれば防げるのか」を常に考えながら、製品安全やリスクマネジメントに取り組んできました。

このブログでは、福祉用具や介護用品の安全な使い方、事故予防のポイント、製品安全に関するニュースや話題を、できるだけ分かりやすくお伝えしています。

また、YouTubeチャンネル「福祉用具あんしんナビ」では、福祉用具に関するニュースや安全情報を音声コンテンツとして配信しています。

利用者、ご家族、福祉用具専門相談員、介護職の皆さまが、安全で安心な生活を送るための一助となれば幸いです。

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