はじめに
福祉用具の安全確認というと、「壊れていないか」「ぐらつきはないか」といった静止した状態での点検を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
しかし、実際の事故やヒヤリ・ハットは、「立ち上がる」「歩く」「またぐ」「座る」といった動作の途中で発生することが少なくありません。
今週は、バスボード、多脚杖、浴槽用グリップ、歩行車、車いす、ジェルクッション、エアーマットレスなど、さまざまな福祉用具について安全管理のポイントをご紹介しました。
本記事では、それらを総まとめし、福祉用具専門相談員の実務や、ご家族の日常点検にも役立つ「動作中の評価(動的アセスメント)」という視点から整理します。
福祉用具の安全管理で重要なのは「動かして確認する」こと
福祉用具は、静止した状態では問題がなくても、実際に使用すると不具合が現れることがあります。
例えば、
- 歩き始めた瞬間
- 浴槽をまたぐ瞬間
- 車いすへ移乗する瞬間
- 長時間座った後
- 体位変換を行った時
このような場面では、身体の重心や荷重が変化し、用具にも大きな力が加わります。
つまり、安全性を評価するためには、「実際の使用状況に近い環境」で確認することが重要になります。
今週取り上げた福祉用具と主なリスク
バスボード
バスボードは浴槽への出入りを支援する便利な福祉用具ですが、固定部の締め付けが緩むと、移乗時に位置がずれる危険があります。
特に、
- 片麻痺
- 関節可動域の制限
- 左右へ体を揺らす移乗方法
では、固定部に大きな負荷が加わります。
さらに浴槽内壁はメーカーや住宅によって形状や材質が異なるため、設置条件も変化します。
導入時だけでなく、定期的な固定状態の確認が重要です。
多脚杖
多脚杖は接地面が広く安定性に優れていますが、脚ゴムは毎日の使用で少しずつ摩耗します。
特に、
- 斜め前方への接地
- 敷居
- 段差
- 傾斜
などでは、一部だけが偏って摩耗しやすくなります。
摩耗はゆっくり進行するため、利用者自身が気付きにくい点も特徴です。
浴槽用グリップ
浴槽用グリップは、浴槽をまたぐ際の重要な支持具です。
しかし、
- クランプ固定部のゆるみ
- 石けん成分による滑り
- 浴槽表面の水分
などによって固定力が低下することがあります。
特に購入後は、貸与品のような定期点検の機会が少ないため、ご家庭での確認が欠かせません。
座面付き歩行車
歩行車では、駐車ブレーキだけ確認して安心してしまうケースがあります。
しかし、実際には、
歩いている最中に減速できるか
という確認が非常に重要です。
疲労時の急な着座や坂道では、静止状態では分からない性能差が現れることがあります。
そのため、歩行しながらブレーキ操作を確認する「動的評価」が実務では重要視されています。
手動車いす
空気入りタイヤを使用している車いすでは、空気圧の低下がブレーキ性能に影響します。
レバー操作が正常でも、
- 停止しにくい
- わずかに動いてしまう
という状態になることがあります。
タイヤを手で押して柔らかく感じる場合は、空気圧を確認することが推奨されます。
ジェルクッション
ジェルクッションは内部の変形や劣化が外観から分かりにくい福祉用具です。
長時間の座位では、
- 支持性能の低下
- 底付き
が起こることがあります。
実際に座って確認し、臀部の支持感を評価することが重要です。
エアーマットレス
エアーマットレスは褥瘡予防に広く利用されていますが、自動調整機能があっても、使用条件によって支持性能が変化することがあります。
特に、
- 背上げ
- 体位変換
- 長時間同じ姿勢
では荷重が変化するため、適切な支持が維持されているか確認することが重要です。
また、湿気やカバーの状態も快適性や衛生面に影響するため、日常的な確認が望まれます。
共通するポイントは「動き」と「環境」の両方を見ること
今週ご紹介した福祉用具には種類の違いはありますが、安全確認の考え方には共通点があります。
それは、
「止まっている状態ではなく、実際に使用している状態で評価すること」
です。
さらに、
- 床材
- 温度
- 湿度
- 段差
- 傾斜
- 利用者の身体状況
といった環境条件も合わせて確認することで、より実践的なアセスメントにつながります。
福祉用具は「製品」だけで安全が決まるものではありません。
利用者・生活環境・身体機能・使用方法が組み合わさって初めて、本来の性能を発揮します。
だからこそ、日々の点検では「動かして確認する」という視点を持つことが、安全な在宅生活を支える第一歩になるのです。
ご家族から寄せられる困りごとと対応策
福祉用具は利用者の生活を支える大切な存在ですが、日常生活の中では「故障ではないけれど何となく使いにくい」「以前と違う気がする」といった相談が少なくありません。
こうした違和感は、安全上のリスクが隠れているサインであることがあります。
車いすのブレーキが効きにくい
「ブレーキレバーは動くのに、以前より止まりにくい」という相談があります。
空気入りタイヤを採用した車いすでは、タイヤの空気圧が低下すると、ブレーキとタイヤとの接触状態が変化し、制動力が十分に得られないことがあります。
このような場合は、
- タイヤの空気圧を確認する
- 必要に応じて空気を補充する
- 管理が難しい場合はノーパンクタイヤも検討する
といった対応が有効です。
エアーマットレスを使っているのに皮膚の状態が改善しない
エアーマットレスは正常に動作していても、利用者の身体状況や使用環境によって十分な支持性能が発揮されないことがあります。
例えば、
- 長時間同じ姿勢が続いている
- 湿気がこもっている
- マットレスカバーの状態が悪くなっている
などが影響する場合があります。
機器の異常だけでなく、使用環境や身体状況も含めて確認し、必要に応じて福祉用具専門相談員や医療・介護専門職へ相談することが大切です。
学生・若手福祉用具専門相談員へのアドバイス
福祉用具の選定では、「製品の知識」を身につけることはもちろん重要です。
しかし、現場で本当に求められるのは、「利用者がどのように使うか」を観察する力です。
例えば歩行車であれば、
- ブレーキはしっかり握れているか
- 曲がる時の姿勢は安定しているか
- 疲れた時の座り方に危険はないか
といった「動き」を見ることが、安全な選定につながります。
また、住宅環境にも目を向けましょう。
- 廊下の幅
- 段差
- 床材
- 浴室の形状
- 玄関の高さ
などは、福祉用具の性能を左右する重要な要素です。
福祉用具は単独で機能するものではなく、「利用者」「住環境」「介護方法」が組み合わさって初めて、その性能を十分に発揮します。
利用者の生活全体をイメージしながらアセスメントを行うことを意識してみてください。
色のユニバーサルデザインから考える安全管理
福祉用具の安全管理では、機械的な性能だけでなく、「見つけやすさ」「分かりやすさ」といった視認性も重要な要素です。
加齢や目の病気、色覚の違いによって、色の見え方には個人差があります。
そのため、安全確認では色だけに頼らず、
- 形状の違い
- 文字やピクトグラム
- 凹凸や触感
- 点灯・点滅などの視覚情報
を組み合わせることが大切です。
また、点検項目をチェックリスト化したり、点検済み・未点検が一目で分かる仕組みを取り入れたりすることで、確認漏れの防止にもつながります。
「誰にとっても分かりやすい」環境づくりは、事故を未然に防ぐための重要な視点です。
まとめ
今週ご紹介した福祉用具には、それぞれ異なる構造や役割があります。
しかし、安全管理という視点では共通する考え方があります。
それは、
「止まっている状態ではなく、実際に使用している状態で確認すること」
です。
固定具の緩み、ブレーキ性能、キャスターの動き、クッションの支持性能、エアーマットレスの体圧分散性能などは、動作や荷重、時間の経過によって初めて見えてくる場合があります。
さらに、利用者の身体機能や住宅環境、介護方法なども安全性に大きく影響します。
福祉用具の点検は、製品だけを見るのではなく、「利用者の生活全体」を見ることが重要です。
日々の小さな確認の積み重ねが、事故を未然に防ぎ、安心して生活できる環境づくりにつながります。
今日から使える安全アドバイス
次の「5秒チェック」を習慣にすることで、福祉用具の異常に早く気付ける可能性があります。
- バスボード・浴槽用グリップ:軽く揺らしてズレや緩みがないか確認する。
- 多脚杖:床についた時の安定性や異音、脚ゴムの摩耗を確認する。
- 歩行車:実際に歩きながらブレーキの効き具合を確認する。
- 車いす:タイヤを押して空気圧が低下していないか触って確認する。
- ジェルクッション:座った際に底付き感がないか確認する。
- キャスター:毛髪や糸くずなどの異物が絡まっていないか、スムーズに回転するか確認する。
- エアーマットレス:支持状態に加え、湿気や臭いなど使用環境にも目を向ける。
毎日の点検は数秒で終わることが多い一方、その数秒が大きな事故を防ぐことにつながります。
「動かして確認する」という習慣を、ぜひ今日から取り入れてみてください。

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